特集:ドニ・デュフール Denis Dufour 作品(プログラムA、B、C)
プログラムA「エベン・ジベン」、「知られざる大地」
(1)Ebene Sieben エベン・ジベン(1997)
(2)Terra incognita 知られざる大地(1998)
プログラムB「星の精霊」、「変態」ほか
(1)L'Esprit en étoile 星の精霊(2007)
(2)Hentai 変態(2011)
(3)Tapovan タポヴァン(2016)
(4)Dionaea ハエトリグサ(2007)
プログラムC「ドニ・デュフール インタビュー」「愛の迷宮」ほか
(1)【ビデオ上映】ドニ・デュフール インタビュー(2022)
(2)Aristée et Eurydice アリスタエウスとエウリディケ(2013)
(3)Si tendre, si funeste とても優しく、運命的な(2014)
(4)Le Labyrinthe de l'amour 愛の迷宮(1984)
(5)Le Tango de l'oubli 忘却のタンゴ(2003)
プログラムD|大塚勇樹/モレキュル・プレーン作品特集
Erosion
(1)Aerial(2022、初演)
(2)Vixen(2016)
(3)Destiny(2017)
(4)The Empress(2018)
(5)Gush(2012)
(6)Disentangle(2022、初演)
プログラムE|ダフネ・オーラム Daphne Oram 作品特集
(1)Introduction(1969)
(2)In A Jazz Style
(3)Four Aspects(1960)
(4)Lego Builds It(1966)
(5)Episode Metallic(1965)
(6)Rockets In Ursa Major [Excerpt 2](1962)
(7)Pompie Ballet [Excerpt](1971)
(8)Nestea(1962)
(9)Bird Of Parallax(1972)
(10)Rotolock(1967)
(11)Costain Suite(1977)
(12)Power Tools(1965)
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「私は電子音楽と、いささかのミュージック・コンクレートの技術を使って、作曲を続けているが、思いは常に、いつか当初の夢に立ち戻ることである。(中略)記号を普通の紙にフリーハンドで描き、それを機械に読み取らせ、出来上がった音を磁気テープに録音する。こうして、何層もの音楽ができあがっていく。装置自体はロボットではなく、作曲や素材の選択にも関与しない。もし作曲家がこの新しい記号のアルファベットでジャズや軽音楽を書いたなら、装置はそれを音として『録音』し、作曲家がその記号を並び替えたなら、機械は作曲家が示した通りに反応する。——つまりその装置そのものに『心』はない。」
(Daphne Oram 1962, Journal of the composer’s guild of Great Britain No.9 Spring)
ダフネ・オーラム(1925-2003)は電子音楽作曲家のパイオニアであり、オラミクス・マシーンの発明者であり、今なお大きな影響力をもつBBCレディオフォニック・ワークショップの共同設立者です。
王立音楽院への入学を辞退したオーラムは、1942年、BBCに入社しました。この時オーラムは17歳でした。その後、1957年にBBC初のエレクトリック・サウンドトラックとなる、『Amphitryon 38』の音楽を制作しました。また同年にフレデリック・プラッドナムによる実験的ラジオ劇『Private Dreams and Public Nightmares』のサウンドトラックを作曲しました。そして翌年オーラムは、電子音楽の研究所である「レディオフォニック・ワークショップ」をBBCに設立したのち、その翌年となる1959年にBBCを退職しました。同年にオーラムは作曲に専念するため、ケント州に独立した音楽録音スタジオを設立しました。
ここで彼女は、独自のスタジオ機器である<オーラミクス・システム>の設計と製作に取り掛かりました。オーラムは、音の「画家」のように、音のピッチや長さ、音色、ダイナミクスなどを図象によって描き出し、その後オーラミクス・システムを通して音に変換するコンセプト、<ドローン・サウンド>に興味を持っていました。そして、その資金調達のため、講義資料の作成や、ラジオやテレビのコマーシャルの音楽の作曲など、自身の仕事の幅を広げ、パフォーマンス、映画、現代バレエ、大規模な劇場作品などにも大きく携わりました。
1972年、オーラムは音の物理学と音響工学のエレクトロニクスに関する自著『An individual Note of Music, Sound and Electronics』を出版しました。この本の中で、彼女は電子音楽とミュージック・コンクレートを批判的に論じ、オーラミクス・マシンの背後にあるアイデアを説明するなどして、自身の音楽哲学に耽りました。彼女は非常に知的で独創性のある音楽家であると同時に、作家、作曲家、あるいはエンジニアであり、イギリスにおける電子音楽の発展に寄与した人物であると言えるでしょう。(石原遼太郎)
ダフネ・オーラム年譜]
1925年 イギリスウィルトシャー州に生まれる
1942年 BBCに入局
1957年 テレビドラマ『Amphitryon 38』の音楽を制作(BBC初のテレビ用エレクトリック・サウンドトラック)
1957年 フレデリック・ブラッドナムによるラジオ劇『Private Dreams and Public Nightmares』の音楽を制作
1958年 BBCを退職
1958年 ケント州に音楽録音スタジオを設立
1960年 初の電子音楽コンサート作品《Four Aspects》がクイーン・エリザベス・ホールにて上演
1961年 映画『The Innocents』(邦題:『回転』)の音楽を制作
1962年 フレッド・ホイルによるSF劇『Rockets in Ursa Major』の音楽を制作
1965年 代表作《Pulse Persephone》が完成
1966年 オーラミクス・システムを開発
1969年 2つのパフォーマンス作品《Contrasts Essconic》をイヴァー・ウォルズワースと共同制作
1972年 テープとピアノのための《Saradonica》をイヴァー・ウォルズワースと共同制作
1972年 セラフィナ・ランスドーンによるバレエ作品《Xallaraparallax》のために《Bird of Parallax》を作曲
1972年 音の物理学と音響工学のエレクトロニクスについて述べた、『An individual Note of Music, Sound and Electronics』を執筆
2003年 死去
参考文献
1.Daphne Oram, “Oramics,” Liner notes for Oramics, pp. 4-8, Paradigm Discs: PD21DCD.
2.The Daphne Oram Trust, “Daphne Oram,” Jun 18, 2022, at daphneoram.org.
3.The Guardian, “Daphne Oram: an unlikely techno pioneer,” Jun 18, 2022, at theguardian.com/lifeandstyle/the-womens-blog-with-jane-martinson/2011/aug/07/daphne-oram-oramics-electronic-music.
4.Ibid, “Daphne Oram,” Jun 18, 2022, at theguardian.com/news/2003/jan/24/guardianobituaries.artsobituaries.
プログラムF|池田拓実、田代啓希、永松ゆか、牛山泰良、中島弘至、天野知亜紀、岡田智則作品
(1)池田拓実「時間の外側」(2022、初演)
(2)田代啓希「Point of No Return」(2022、初演)
(3)永松ゆか「イチジクとイチジクコバチ」(2022、初演)
(4)牛山泰良「百物音 -しねん楽より」(2022、初演)
(5)中島弘至「不穏なる世界」(2022、初演)
(6)天野知亜紀「gyration」(2022、初演)
(7)岡田智則「アキノクニ」(2018)
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音楽は時間芸術と言われるが、時間とは専ら個々人の記憶の作用であり、幾何学化された時間概念とは認識の牢獄に他ならない。時間的要素を可能な限り弱体化させることで音楽は時間外構造に近づく、あるいは未知の時間概念を示唆するかも知れない。ここでは空間を渡り歩く経路を只管列挙することで"可能性そのものの空間"を垣間見る。周波数領域では純正五度を枠とする非オクターブ音律を構成。Д.ハルムスのテキストを使用。
PROFILE
池田拓実 |コンピュータ音楽家。作曲家。作曲とプログラミングを独学。SuperCollider、Ruby、Processingを主に用いる。演奏家・演奏団体のための作曲のほか、近年はMusical Procedureと称する手続き的演奏・作曲法に取り組み、即興音楽家やダンサーと共演。木下正道・多井智紀と共に「電力音楽」として活動。OFFICIAL SITE
(2)田代啓希「Point of No Return」作者のコメント
本作は私が今まで制作してきた「Point」という名前が含まれる作品群の一曲として作曲した電子音響音楽作品である。これまでの作品群と同様にドローンを主軸に構成される本作は、それぞれの音自体には具体的な意味を持っておらず、それらの音の組み合わせによって1つの世界を創造している。私がテーマに掲げている「自由なイメージを想起できる音」の通り、聴き手には自由な解釈でそれぞれの情景を想起してもらいたい。
PROFILE
田代啓希 |神戸市出身。音響作家として自由なイメージを想起できる音をテーマに作品制作に取り組む。またエンジニアとして音のみならず、映像配信に関する技術サポートも行っている。これまでに、CCMC(東京)、FESTIVAL FUTURA(仏)、ボンクリ・フェス(東京)などで作品を上演。CCMC2019にてFUTURA賞、2020にてMOTUS賞を受賞。大阪芸術大学大学院博士前期課程修了。京都精華大学非常勤講師。
(3)永松ゆか「イチジクとイチジクコバチ」作者のコメント
電子音響音楽のフロンティアを共生という生物のいとなみから導けないだろうかと考えた。生物のいとなみは、音楽と同じように多くの数学的な美を持ち合わせているように思う。この作品は、水族館の生物の共生空間に潜む秩序を、音で描いてみたいと考えて、彩色したものである。
PROFILE
永松ゆか |大阪芸術大学大学院博士前期課程修了、電子音響音楽の創作や研究に携わる。相愛大学音楽学部助教、帝塚山学院大学リベラルアーツ学科情報クリエイティブ専攻非常勤講師。CCMC(東京)、Prix PRESQUE RIEN(フランス)コンテスト入賞、ラジオ・フランス(INA・GRM)、The Lake Radio(デンマーク)など放送やコンサート上演を中心に活動をおこなう。
(4)牛山泰良「百物音 -しねん楽より」作者のコメント
2012年に制作した「しねん楽」という楽曲があります。そこから百個の断片を取り出し、百回繰り返します。会場には四つのスピーカーと四秒毎に増える音。話は変わりますが百物語という降霊術をご存知でしょうか?百個の怪談を語り終えると本物の怪異が現れると言います。蝋燭は結界の意味を持つらしく、簡易的な物では四つで良いらしいです。では百個の物音が四つのスピーカーから流れ、途切れる時、何がおこるのでしょうか。
PROFILE
牛山泰良 |1989年12月長野県諏訪市に生まれる。電子音楽,サウンドアート作家、音響エンジニアと活動は多岐にわたる。エリザベト音楽大学,相愛大学非常勤講師。2014年に仲間と共に電子音楽カンパニー「hirvi」を立ち上げ、電子音楽のワークショップやコンサートを企画・運営している。創作においては伝統と前衛、音と空間を内包した創作を目指す。
21世紀を迎えて、我々はグローバル化の豊かさを享受するとともに、危うさとも隣合わせるようになった。近年であれば、コロナウイルス蔓延やウクライナ危機が、まずは思い浮かぶ事例であろう。これまで芸術家は、危機に際して人類に警鐘を鳴らしてきた。後世を生きる人たちが、愚かにも、過ちを侵さないことを願ってである。私もこの作品を制作することで、微力ながら、そうした列に加わりたいと思う。
PROFILE
中島弘至 |若い頃、音楽大学を卒業した。その後、音楽とは無縁の長いサラリーマン生活を送った。いま仕事の重荷から解放され、新たな目標に思いを巡らせたとき、音楽への情熱が蘇ったのである。ミュージック・コンクレートとは「具体音楽」と訳され、あらゆる音が作曲の素材となりうる。大阪芸大の恩師との出会いから、ミュージック・コンクレートの存在を知った。幸運にも大学院という研究機会を得た。思う存分、作品を生み出したいと思う。
(6)天野知亜紀「gyration」作者のコメント
カリンバを用いて幾つかのパターンを収録して聴き返していると、自分が好んでいる音質やリズムの特性に気づいた。その特性から少し逸れた音を派生させるため、maxmspによる自動生成のプログラムを応用して作成した。
PROFILE
天野知亜紀 |音と映像、鑑賞者の相互作用を意識した複合的な表現による作品を手掛ける。アクースモニウム作品を作曲する他、「アンサンブル瀬⼾内」にて編曲・作曲を担当。また、音楽×彫刻によるユニット「symbi」ではサウンドインスタレーションの展示などの活動を行う。
広島(中国地方)の歴史や風習をテーマに、それを後世に伝承していくための音楽。広島にある宮島の美しい自然を、永遠にありのままの姿を守り続けて欲しいという願いを込めて作曲した。古来より親から子へ、師から弟子へ受け継がれる「口伝」をイメージさせ、古典芸能の伝承方法に類似する最適な手段と考え、制作に取り入れた。また、言語から発生するリズム感に注目し、それを音楽として構成することを試みた。この曲のテクストには、後白河法皇が書いたとされる『梁塵秘抄口伝集巻第十其の十六』に書かれてある厳島神社の記述を使用し、その朗読をリズミカルに編集することで、電子音響音楽のためのボーカリズム作品として作曲した。
PROFILE
岡田智則 |広島出身。録音技術やプログラミングを中心に、サウンド・テクノロジーを用いて制作を行うサウンド・アーティスト。アクースモニウム奏者。現在、地方を中心に、現代音楽作曲技術を用いた地域活性・古民家再生事業に取り組む。「CCMC2017」Futura賞入賞。「Prix Presque Rien2017」入選。長久手市長賞受賞。電子音楽の上演だけでなく2019年9月には、「愛知県立芸術大学ポピュラー・クラシック・コンサート」で、2管編成によるオーケストラ作品『ヤマタノオロチ』が世界初演されている。
プログラムG|宮木朝子、フランコ・デグラシ、ユミヤマシタ、マ・ユンジュ、石原遼太郎、新美術作品
(1)宮木朝子「モルフォリア1」(2021)
(2)フランコ・デグラシ「in a field / a leaves」(2022、日本初演)
(3)ユミヤマシタ「スーパーヒモサウンド」(2022、初演)
(4)馬 筠茹「L’Astronome」(2022、初演)
(5)石原遼太郎「Aria (rethink)」(2022、初演)
(6)新美 術「王宮の花」(2022、初演)
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「Opera acousma III」の1シーン。タイトルはモルフォ蝶、モーフィング、フォリアの意味を組み合わせた造語で、モーフィング技術によるサウンド処理を行なっている。音素材として、無響室で録音された声、砂の音、石をこする音なども使用。バルセロナの音楽レーベルAmbient fluxのコンピレーションCD V/A::Synthesis<2(Ambient flux)に収録されている。
PROFILE
宮木朝子 |作曲家、空間音響作家。現代音楽を起点に、映像-香り-身体-特異な場などと関係を結ぶ音響制作とその空間展開を行う。サラウンド音響作品『Afterimage』により「坂本龍 一|設置音楽展コンテスト」最優秀賞受賞。コニカミノルタ・プラネタリア東京「星空ラウンジ」にて、22.2chのための空間音響展示『平均律 22.2ch Remix』を継続中。
(2)フランコ・デグラシ「in a field / a leaves」
PROFILE
フランコ・デグラシ Franco Degrassi |作曲家、即興演奏家。アクースマティック音楽や電子音響即興のCDをCreative Source Recordings, Portugalなどからリリースしている。フュチュラ音楽祭など世界中の音楽祭で作品が上演されている。2005年にジョナタン・プラジェと共にアクースモニウムM.ar.eを、 2014年にはイタリアのバリにSilenceフェスティバルを設立。
(3)ユミヤマシタ「スーパーヒモサウンド」作者のコメント
「超ひも理論」という単語の並びが好きだ。”理論"というお堅い単語にアンバランスな”ひも”というユルい単語 (ひらがな表記なのが大事)、それを明快に”超”で強調する。理論の中身はよく分からないが、素粒子が点ではなく、ひも状だと想定することで様々な理論上の困難が解決されるらしい。宇宙はひもでできているのだ。
PROFILE
ユミヤマシタ |大阪芸術大学音楽学科卒業。在学中より電子音響音楽の制作を始める。ボンクリフェス他に出品。hirviのメンバー。今年7月にhirviとしての初音源集「CERVICORN」を発売。
(4)マ・ユンジュ「L’Astronome」作者のコメント
この作品は、アントナン‧アルトー(Antonin Artaud)が未完のプロジェクト『天文学者』の中で述べた記述に発想を得ています。ミュージック‧コンクレートがまた生まれてない以前、1932年のアルトーによる音楽についての記述には、すでに「空間」の概念がありました。「音楽は、遠く離れた破局が部屋を包み込み、目もくらむばかりの高さから落ちてくるような印象を与える。落下させる。和音は空から始まり、極端なものから次の極端なものへ、落ちていく。音は高いところから落ちてくるようで、やがて止まり、湧き出し、傘の形状や音の層を形成する。」この物語をアクースモニウムの力を借りて再現したいと思いました。彼は残酷な演劇を書くことで知られていたので、ヒステリーや狂気、鋭い音を作品に入れました。
第1部は「星の飛行 (Vol des etoiles)」。この題名には二つの意味があり、一つは解放における概念、星や感情なのか、答えは想像にお任せします。そしてもう一つは「 美しいものの下に潜む闇」です。心臓が動いている限り、狂気を持ってない人はいないでしょう。
第2部を「星が枯れて時(Losque les etoiles trombent)」と名付けました。第1部の狂気から第2部のパラノイアと混乱へと「極端から極端へ」という概念に基づきました。「私は誰だ? 私はどこにでも存在する?」と主人公が自分自身と会話しているかのように、言葉やフレーズの繰り返しによって、さまざまなニュアンスで精神状態の変容を表現しています。また第1部とは対照的に、第2部は暗闇の中の美について書かれていますが、わたしは美と恐怖は共存できるものだと思います。怖さも美学の一部なのです。
PROFILE
マ・ユンジュ Yun-Ju MA |作曲家、ピアニスト。1992年台湾生まれ。5歳より音楽の勉強を始める。幼少よりピアノを始め、台湾で15年以上音楽学、音楽史、和声、分析、音楽理論などを学ぶ。そして2014年に日本に渡り、相愛大学で松本直祐樹氏に師事し、器楽作曲の勉強を続ける。2016年電子音楽に出会い、檜垣智也氏に電子音楽作曲を学ぶ。以来、アニメ音楽、室内楽、吹奏楽の作曲を依頼され、コンサートを行っている。フランスや日本の音楽祭ではアコースモニウムで演奏されている。2019年パリ市立音楽院に入学し、電子音響作曲をドニ‧デュフール、ポール‧ラマージュ、分析をジョナタン・プラジェ各氏に師事する。
(5)石原遼太郎「Aria (rethink)」作者のコメント
楽曲の素材にバッハの《ゴルトベルク変奏曲》(BWV. 988)より冒頭2小節、6拍のみを用いた。この6拍を解体・再構築するなかで、オリジナルの質感を残しつつ、滞留的、無時間的な作品に仕上げることを試みた。そして《ゴルトベルク変奏曲》は空間的なあり方としてマテリアライズされ、そこにバッハのもつ記号性を発現させる。こうした有時間的キャラクターを空間的キャラクターへと再構築する過程をもって「再考(rethink)」とした。
PROFILE
石原遼太郎 |神奈川県出身。東海大学教養学部芸術学科音楽学課程在学。ジャズ、電子音響音楽、インスタレーションなどを中心に作品を製作。
インドネシアのガムランで使われる旋律楽器"サロン"は5音音階。コレを丁寧にサンプリングして、全音階で鳴らしてみた。逆行・反行とりまぜて聴こえて来る音の洪水に、かつての栄光と寂寥感、今もなお力強く生きる現地の人々の営みを合わせて表現してみた。パンデミック以来しばらく遠ざかっている、ガムランの雰囲気を懐かしんでアルゴリズミック・コンポジションの技法で制作した作品。
PROFILE
新美 術 |大阪芸術大学在学中に電子音響音楽に出会う。MAXによるアルゴリズミック・コンポジションを学ぶ中で、自身の勤める幼児教育分野への応用を始める。音楽理論を学ぶ前の幼児期にこそ、身の回りで鳴り響く音そのものへの興味、音楽する楽しさ・表現する喜びを伝えるべく、その方法論を日々模索中。
プログラムH|sachiko nagata x chiharu mk 、渡辺愛、林暢彦、仲井朋子、佐藤亜矢子、李英姿作品
(1)sachiko nagata x chiharu mk「blue flow iii」(2013)
(2)渡辺 愛「刷工場にて」(2022、初演)
(3)林 暢彦「Harness」(2022、改訂版)
(4)仲井朋子「Mにつづく」(2022)
(5)佐藤亜矢子「rabbit locked in the kitchen」(2022、日本初演)
(6)李 英姿「SEARCHING」(2015)
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(1) sachiko nagata x chiharu mk「blue flow iii」作者のコメント
2013年にリリースされた 打楽器奏者 永田砂知子と 電子音楽アーティスト chiharu mkのコラボレーションアルバム。永田砂知子の卓越した演奏技術による色彩豊かな波紋音の響きと、神威岬をはじめとする北海道各地でフィールド・レコーディングした自然音の融合によって構築されるchiharu mkの電子音楽が、幻想的で独自の日本のサウンドスケープとなっている。カムイはアイヌ語で「神」を意味し、作品全体は4つの楽章からなる。
会場映像:Kimiko Otaka (コンテンポラリー・ダンス)による2017年のフランス・ニース公演。
PROFILE
永田砂知子 |打楽器奏者。東京藝術大学打楽器専攻卒業。90年代より活動の場をクラシックから実験音楽の世界へシフト。鉄の金沢健一や、陶の渡辺泰幸など美術家のサウンドアート作品にかかわりだす。1997年に出会った齊藤鉄平の「波紋音(はもん)」で全国各地、海外でも活動。2009年波紋音パリ公演の際、ベルナール・バシェと出会う。以後、万博・鉄鋼館に残されたバシェ音響彫刻の修復や展覧会などにかかわる。2015年バシェ協会設立・会長を務める。
OFFICIAL SITE バシェ協会
PROFILE
chiharu mk |フランスGRMで電子音響音楽を学ぶ。1st Album「piano prizm」が国内・海外で話題となる。Out of the concert hallをテーマに横浜三渓園旧燈明寺、モエレ沼公園、水族館巨大水槽前ほかでライブパフォーマンス。香港アートセンター40周年記念事業にゲスト出演。2020年中国・麗江で滞在制作中にコロナで緊急帰国。昨年はイギリスのアート・ラボ「IKLECTIK」と「ZAPT」委嘱による新作を発表。
OFFICIAL SITE
2020年11月に長野県にある藤原印刷という印刷会社を訪ね、工場の中をフィールドレコーディングさせてもらいました。録音された音を時間が経って聴くと、リアルで感じた迫力よりも工場見学の思い出と相まって機械のビートが懐かしいものに感じられました。ピアノの即興を重ねて、時間感覚の倍率を広げるようにデザインしました。——この作品は2022年5月にJ-WAVE RADIO SAKAMOTOで放送されました。
PROFILE
渡辺 愛 |アクースモニウム演奏家。パリ国立地方音楽院修了、東京藝術大学大学院博士後期課程修了。JAPAN2011受賞(イタリア)、国営ラジオでの放送(フランス)、ICMC2018(韓国)、RADIO SAKAMOTO(presented by 坂本龍一)での放送等国内外で評価を得る。東京藝術大学・昭和音楽大学・玉川大学各非常勤講師。日本電子音楽協会理事。JWCM女性作曲家会議メンバー。
「ハーネス」(くつわ)という題は、作中に現れる⾦属的なざわめきに由来する。この⾳は作者が⼊⼿した江⼾時代の⾺具から作られた。同時に、『Harnessed』と題されたマーク・チャンギージーの書物からも影響を受けてもいる。この作品における私の関⼼は、私たちが住む世界がもの=おとの世界でもあるということを、SF 的な異質さをもって表現することだった。
PROFILE
林 暢彦 |音響作家。1992 年愛知県⽣まれ。電子音楽、インスタレーション、NFT、映画音響など、幅広い領域で制作。
OFFICIAL SITE
“M”は、質・量共に大きい単位を表すために用いられるが、この作品は夢の比重といくつかのM に続くキーワード(money, mind, mountain, memory...)によって構想されている。主にリーマンショック後の、某豪遊都市でのフィールドレコーディングの足取りを追いながら展開されており、ロード・ムービーとして作曲された。
PROFILE
仲井朋子 |テクノロジーを軸とした音/音楽表現を基軸に、空間の在り様を問う様々な作品形態に取り組んでいる。作品は、音楽と装置のトポロジー(東京藝術大学陳列館)、「青森 EARTH2014」(青森県立美術館)、マテリアライジング展III(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA)などで演奏、展示されている。
(5)佐藤亜矢子「rabbit locked in the kitchen」(2022、日本初演)作者のコメント
外食する代わりに、ウサギの台所で夕食を作らねばならない。我々は、目に見えない何かに怯えて家にこもる必要があるらしい、しかし、いつまで?何を恐れなくてはならないのか?そろそろ次の台所へと進むべきでは?ウサギよ、何も怖がることはない。
PROFILE
佐藤亜矢子 |作曲家。主に電子音響音楽の領域で活動。旅先や日常で録音する音を素材とし、環境や場所の記憶を辿りつつ上書きするような作品を作っている。ICMC、SMC、NYCEMFなど10カ国以上の国際学会や音楽祭で作品を発表。東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了。作曲家リュック・フェラーリの研究で博士(学術)取得。現在、玉川大学、大阪芸術大学、尚美ミュージックカレッジ非常勤講師、パリ第8大学客員研究員。
(6)李 英姿「SEARCHING」(2015)作者のコメント
作品「SEARCHING」は現実の中で生活の息吹を探して、虚像でぼんやりな空間を求め、真実と虚像の中で自分を探すことを伝えたいのです。永遠に誤りと正しさはわかってなく、ただ止まらず探索して、追いかけている。この作品はリュック・フェラーリ・アーカイブの中から使用した音を素材にし、元の音源の自然な環境音を保留し、作品の中にリアルな生活環境を作られている。ある音源素材は新しく加工され、作品の中にエレクトロニックな雰囲気が現れるようにした、それはまるで幻な空間みたい。
この作品はリュック・フェラーリ・アーカイブの中から使用した音を素材にし、「PRESQUE RIEN Prize」に応募した。
PROFILE
李 英姿Yingzi LI |電子音響音楽作曲家、二胡奏者、ゲーム音楽制作ディレクター、洗足学園音楽大学非常勤講師 二胡専攻で大学卒業、中国でさまざまなコンクールで一、二、三等賞などを受賞。2007年来日、二胡奏者として日本各地で活動し、2020年二胡デビューCD「Beyond」を日本及び海外でリリース。2016年東京藝術大学音楽音響創造研究分野で修士課程を修了。電子音響音楽作品は日、仏、中国、米などな国際音楽祭や作曲コンクールにノミネート、上演された。