大久保雅基/自撮りの背景にいる男の赤い唇(世界初演)(9:53)
Motoki Ohkubo: A man's red lip in the background of a selfie (World Premiere)
録音された音はマイクやスピーカーの特性を利用し、実際の耳で聞く音とは異なる音色や音量となり扱われる。その誇張された音がまたエフェクトなどの変化によって新たなテクスチャを生み出し音楽を形成する素材となる。スピーカーから放射された音はホールの空間音響と混ざり合い、また新たな音の質感を生み出すだろう。いくつもの変化を通してオリジナルの音を認知できない状況で、私達は何を聴くのだろうか?(大久保雅基)
牛島安希子/屈折光線(世界初演)(5:54)
Akiko Ushijima: Refracted ray (World Premiere)
《屈折光線》は、水中で光が屈折し、乱反射する現象から着想を得ました。近年取り組んでいる光学現象に焦点を当てたシリーズの一つです。今回の光は夏の太陽光。夏の、生と死の境界が普段より曖昧になり、過去と現在も入り乱れるような感覚をイメージしています。作品の中で使われているエレクトリック・ギターの演奏は山田岳さん、チューバの演奏は橋本晋哉さんです。(牛島安希子)
ダリアン・ブリート/デブリ[1] // 弁証法 (8:32)
Darien Brito: Debris[1] // Dialectics
ダリアンはオランダの同じ学校で学び、何度か一緒にコンサートをしたアーティストです。オーディオビジュアル作品も手がけており欧州で広く活躍していますが、今回はドイツのZKMで初演された電子音楽作品をお聴きいただければと思います。
《デブリ[1] // 弁証法》は純粋な合成音源のマイクロ・ソニック・トランスフォーメーションに焦点を当てた一連の3つの作品の中の一つです。このサイクルは以下のように構成されています。
Debris[0] //Granite - スペクトルにおける粒状の放射速度の変化
Debris[1] // Dialectics - 激しい動きの状態と安らぎの状態を交互に繰り返す
Debris[2] // Volatility - 聴覚の状態が直面し、拡散し、融合する
各作品は、マイクロソニック現象の特定の状態を反映しています。このサイクルは、マイクロソニック現象へ持続的に魅了された結果、生まれたものです。(牛島安希子)
マヌエラ・ブラックバーン/Ice breaker (7:09)
Manuella Blackburn: Ice breaker
マヌエラはイギリス在住の作曲家です。彼女の作品は繊細な音響が素晴らしく、以前から注目していました。この作品は音響学で小さい音を扱う文脈で作られたシリーズの一つ。氷の外側の層が膨張して割れる時の亀裂の音、泡立ちや液体を注ぐ音が作品の中心となっています。2015年の夏にマンチェスターの作曲家のスタジオで制作され、同年ブリュッセルのL’Espace du sonフェスティバルで初演されました。(牛島安希子)
ハリス・キトス/アヴァリス<貪欲>(6:18)
Haris Kittos: Avarice
ギリシャ人作曲家ハリス・キトス、彼は僕と同じ英国での音大の同級生。彼の方がずいぶん年上だけど。今年の大人ボンクリを選曲する時に(これは大人ボンクリ始まって以来僕のただ一つの選曲)、21年前に大学生の時に、たまたま聴かせてくれたこの作品を僕が思い出し、マスター音源を(かなり苦労して)探してもらいました。21年も僕の頭に残っている音楽。題名の通り、音はコイン(お金)をテーブルに落とした音を元に作られている曲です。(藤倉大)
ジム・オルーク/Shutting Down Here (Excerpt Version) (10:30)
Jim O’Rourke: Shutting Down Here (Excerpt Version)
ジム・オルークの本作はフランス国立視聴覚研究所(INA)の中のフランス音楽研究グループ(GRM)とオーストリアのウィーンに拠点を置く実験的なエレクトロニックインディペンデントレコードレーベルEditions Megoが始めた企画「GRM Portraits」第一弾作品。フィールドレコーディングやエレクトロニックテクスチャーなど多くの要素を駆使してダイナミックな空間を作り上げている。(Nagie)
檜垣智也/響きの世界の中で[スケッチ3](世界初演)(4:59)
Tomonari Higaki: Dans le monde sonore [esquisse n˚3](World Premiere)
フランスの作家ヴィクトル・セガレン(1878-1919)の短編小説「響きの世界の中で」で描かれる様々な場面を取り上げ、自由なインスピレーションで音楽化しているシリーズの3作目である。本作では現在のエコー・エフェクトを予見するような主人公の手掛ける奇妙な機械によって音が無限に反響する部屋の響きを素描する。(檜垣智也)
及川潤耶/Bell Fantasia 【シュヴェービッシュ・グミュントの音の風景】よりBell Strata2 (8:02)
Junya Oikawa: Bell Fantasia - Acoustic scenery of Schwäbisch Gmünd | Bell Strata2
仙台出身の及川潤耶さんに本作をボンクリで上演できないかと相談したところ「今年、(東日本の)震災から10年ですが、現在コロナの影響で世界中が大変な状況でもあります。この作品の体験や、制作経緯を日本そして地元仙台の人々に、これからの"平和への祈り"として共有できたら」と彼らしい慈愛に満ちたメールがすぐに届き、これは大人ボンクリでやるべきだと直感しました。ドイツで収録した鐘の音を扱った祈りのシンフォニー。劇場は一瞬で伽藍になるでしょう。(檜垣智也)